ドイツを代表するドライバー専業メーカー。現在は生産の拠点をチェコに移しドイツでは営業、開発などの部門を残すのみとなっています。ドライバー専業メーカーとしての経験をベースに、最近はレンチやラチェットなど新しい分野での製品開発にも積極的です。ドライバーの先端に施した、ダイヤモンドチップ、レーザーチップなどの滑り止め加工は、日本でもすっかり有名になっています。
text:高野倉匡人(ファクトリーギア代表)
Contents
ロゴマーク
呼称・名称・略称
ヴェラ
国(ブランドのある国)
ドイツ
工場
チェコ
概要
チェコ南東の丘陵地帯にあるWERAの工場(左)と、ヴッパタールにある本社(右)
ドイツの有名工具メーカーが集積するヴッパタールに本社を構えるWERA(ヴェラ)は、1936年創業のドライバー専業メーカー。しかし、今やドライバー専業メーカーという表現が相応しくないほど、そのラインアップが広がってきています。WERAが大きくラインアップを拡充し、新たな工具ブランドとしての存在感を増している背景には、ファミリー企業が多いドイツの工具メーカーのなかでは珍しい、社員から叩き上げともいうべき社長が指揮をとっていることにあるのかもしれません。
歴史(エピソード)
現在の社長であるマルティン・シュトラウホ氏は、1982年に学生の企業実習プログラムと一貫として2年間、ヴェラ社の営業のお手伝いをしたときからヴェラとの交流が始まり、その後、ヴッパタール地区を故郷とするマルティン社長は、自然な流れでヴェラに入社し、ヴェラの様々なプロジェクトの中心となりキャリアを重ねてきました。そして2006年。創業家オーナーであるクラウス・アムテンブルク氏より社長を引き継いだのだそうです。
現在、WERAの生産の拠点はドイツにはなく、そのほとんどの製品が1995年に進出したチェコにある最新鋭工場で作られています。何故、ドイツ企業がチェコで工具を作るのか?目的はコストダウンなのか?その理由を知りたくて、筆者は2013年にチェコの工場を訪問しました。プラハから南に約200キロ離れたビストジチェという街までクルマで移動し、郊外の様子を感じ、工場の中を歩き、働く若者と触れ合ってみてわかったのは、コストだけではなく、この場所の歴史と文化がヴェラのモノ創りにフィットしているからこそ、ここに工場が出来、20年に渡りドイツを代表する上質な工具が作り続けられるのだということです。
チェコ人はもともと「黄金の手を持つ」と言われるほど手先が器用な民族で、東西が統一される以前は東側の機械・武器の多くはチェコで作られていたそうです。さらにヴェラの工場のある地域は、自然環境の厳しい寒い地区。日本の雪国を思い起こすような厳しい地区の人たちは、粘り強く、辛抱強い。ドイツ人のこだわりのものづくりの理念を理解し、粘り強くモノ創りに勤しむカルチャーがあるのだといえるでしょう。
こうしてチェコ人気質とドイツのモノ作りの歴史が融合して現在のヴェラ製品は生まれています。実は、このチェコ工場建設という壮大なチャレンジの指揮をとったのが、当時若手だったマルティン社長。異国での工具作りという挑戦により道を開いたヴェラが、今、革新的な工具創りにチャレンジするのは、現社長の歩んだ、こんなヒストリーがあるからかもしれません。
カテゴリー
ドライバーを主軸としたハンドツール全般
主な製品(代表工具)
現在の主流はレーザーチップドライバー
(写真上からスリップストップ、ダイヤモンドコーティング、レーザーチップ)
昔、日本国内で人気を集めていたのが、先端にダイヤモンドパウダーをコーティングしたタイプのドライバー(写真中央)で、メーカーを代表する工具のように紹介されている記事がたくさんありましたが、以前から現場でコーティングが磨耗してしまったこのタイプのドライバーを何度も見ていたので、マルティン社長に「ヴェラのダイヤモンドコーティングは世界的にも人気のあるアイテムなのですか?」と、直接この件を聞いてみたところ、驚きの回答が返ってきました。
「いいえ。このドライバーは日本とドイツの1社のみで売れているもので、それ以外ではほとんど販売されていないレアな商品です。逆に私のほうこそ、どうしてこの商品が日本で売れているのか知りたいのですが・・・」
「ダイヤモンドコーティングは磨耗します。これは現在WERAの主力製品であるレーザチップと比較しても消耗は早い。それなのになぜ日本ではレーザーチップではなく、ダイヤモンドコーティングが人気なのでしょうか。元来、先端に様々な加工を施すのは、ドライバーにとってプラスワンの機能であって、どちらかというと磨耗してしまったり、形状が崩れてしまったビスに対しての優れた機能と考えています。私はドライバーの性能は、シャンクの材質、熱処理、形状、グリップといったものこそが重要な要素だと考えています。」とのこと。日本ではヴェラの代名詞のように言われてきたダイヤモンドコ ーティングチップは、もはやドイツではレアなアイテムとなっていて、その後のスリップストップもさらに進化、今ではレーザーチップタイプが主流ということです 。但しマルティン社長も再三アピールしていましたが、ドライバーは総合的な評価が大事なので、あまり先端の形状だけにとらわれないほうがよいかもしれません。
デザインの特徴
独特なグリップ形状は粘土を握りつぶした時の形状をベースとしたもの。長く変わらないデザインですが、日本ではまだまだ目新しい斬新なグリップに見えます。先端に施されたレーザー加工がネジへの抜群のフィット感を生み出しています。
使用されている業種
機械工具業界
自動車整備業界 他
販売形態
工具専門店
WEB販売
保証
WERAの本社に確認したところ、ドイツ法律の関係で「Life Time Warranty」を明言することはできませんが、クレームが起これば、ほぼ全て事実上の対応を行っているそうです。
参考文献
ハンドツールバイヤーズガイド 学習研究社
工具の本vol.7 学習研究社
世界の一流工具2015 洋泉社
その他
チェコ工場の様子
チェコの工場で働くスタッフには若い世代が多い。学生が一定期間、工場内の現場で実作業を学べるというドイツと同様のシステムを導入し、地域の技術系学生とのネットワークを地道に築いているのだそうです。
工場内の若者の働く姿からは、情熱的なエネルギーが感じられました。