水上バイクのメンテナンスと工具のお話。

PWC(パーソナル・ウォーター・クラフト / 水上バイクの略)シーズン真っ盛りの夏。沖縄まで足を延ばして、本誌「ホットウォータースポーツマガジン」でも紹介されていたXpowerさんの離島ツーリングを堪能してきました。そのあとは、歴史ある整備スペースを見学。ハンドツールだけではなく、年季の入った工作機械までが揃った作業エリアを見ると、さすが安心してお任せ出来るショップだなあと思うと同時に、自分もこういう作業場でPWCをいじってみたいなあという衝動にかられてしまうのでした。
text:高野倉匡人(ファクトリーギア代表)

日常メンテにお気に入りの1本を

今のPWCは私が乗り始めた25年以上前のモデルと比較すると自分で出来ることは少なくなりましたが、ちょっとしたマイナートラブルへの対処や日常メンテナンスでは、まだ自分で出来ることもあるはず。ちょっとしたネジ回しに、お気に入りのラチェットレンチを使えば気分も盛り上がります。1本のお気に入りのラチェットレンチとの出会いがPWC遊びの楽しみを増幅することになるのではないでしょうか。と、いうことで今回は初心に帰ってPWCいじりにお勧めしたいラチェットの話をしたいと思います。

差し込み角の違い

写真上から、12.7mm、9.5mm、6.35mmの差し込み角。これだけ違えば使用用途や使い勝手も大きく変わります。
ラチェットを選ぶ際に、最初に考えたいのがラチェットの大きさです。そして大きさを決めるポイントとなるのがラチェット本体とソケットをつなぎ合わせているスクエアの大きさ。PWCのメンテナンスで主に使われるサイズは6.35mm角、9.5mm角、12.7mm角の3サイズとなります。このなかで、日本で多く使われているのが9.5mm角なのですが、意外なことに欧州ではこの9.5mm角のラチェットはほとんど使われていないのが現状です。

PWCに最適な差し込み角は?

6.35mm角のボディに9.5mm角の差し込みを付けたラチェットも最近のトレンドです。
と、いうのも、6.35mm角のラチェットの推奨サイズが3.2mm~14mmまでで、12.7mm角は8mmから36mmまで。つまり、この2サイズでほぼ一般的に目にするサイズのビスを快適に回せてしまうからです。9.5mm角が人気な、アメリカの工具文化の影響を受ける日本であることと、かつて6.3mm角のラチェットは弱いという印象を持った人が多かったということが大きな理由だと思いますが、いまではすっかり耐久性も増し、ラインアップも増えている6.3mm角のラチェットレンチ。昨今、手の入るエリアが狭くなっていたり、樹脂系の素材で高トルクを懸けられなくなっていたりするPWCメンテには最適なサイズだといえるでしょう。もうすでに9,5mm角でソケットも色々揃えてしまったからというユーザーには、ボディサイズが6,3mm角で差し込み角が9.5mm角というラチェットもあるので、一度試してみるのも良いと思います。元々、世界的には幅広い業種で使われているサイズだけに種類も豊富なので、自分にフィットするフィーリングのモノをじっくり吟味して選べるはずです。

オススメラチェット3選

ネプロス 6.35mm角 90ギア ロングラチェット

ファクトリーギア参考販売価格 8,560円(税別)
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コンパクトなヘッドに90枚という繊細なギアを内蔵したネプロスの最新モデル。全長175ミリと長めなので9.5mm角に慣れた手でも扱いやすいのも特徴。KTCの技術の粋を集めた傑作といえるでしょう。

 

コーケン(ジール)6.35mm角 36ギア ショートフレックスラチェット

ファクトリーギア参考販売価格 6,720円(税別)
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昨今の多ギアラチェットの流れを全く意に介さず、コーケン伝統の軽い使用感を追求したコーケンの新シリーズ「Z-EAL」のラチェット。シンプルなデザインながら、使って見れば、他のラチェトとは一線を画したこだわりの軽やかさを体感できる逸品です。

 

DEEN 6.35mm角 72ギア ショートスイベルラチェット

ファクトリーギア参考販売価格 5,900円(税別)
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左右2点支持により、ヘッドを曲げた時に支点がズレないスイベルラチェット。コンパクトなヘッドを真上に向けることで、ドライバーのように作業できる汎用性の高いラチェットハンドルです。

 

※このレポートは月刊誌「HOT WATER SPORTS MAGAZINE」に連載中の「ハンドツール虎の穴」2017年10月号の記事をWEB用に再構成したものです。