HONDA(ホンダ)のディーラーメカニックの工具箱の中身!in カリフォルニア(USA)

「自分の生活を支えるのは自分の技量」と話す、アメリカ・カリフォルニアのHONDA(ホンダ)のディーラーメカニックがピットで使っている工具は!?工具箱の中を見せてもらいました。

カリフォルニアのごくごく普通のメカニックがどんな工具を使っているのか?それも日本車のメカニックの工具を見てみたい!と、いうことで今回はアメリカ在住30年。ホンダディーラーのメカニック真鍋さんを訪ね、ピットで使われるプライベート工具を見せてもらいました。
text:高野倉匡人(ファクトリーギア代表)

いざ、カリフォルニアのホンダディーラーへ

アメリカで日本車を扱うディーラーメカニックはどんな工具を使っているのだろうか?クルマが日本車なのだから、日本のメカニックとさほどかわらない工具なのだろうか?日本よりもクルマを酷使するアメリカのメカニックは、工具に対してどんな思いを持って使っているだろうか?

そんな思いを抱きつつ今回訪問したのは、カリフォルニア州のアナハンブラにあるホンダディーラー。カリフォルニアのなかではごくごく標準的なスケールのディーラーだということですが、日本のサービス工場を見慣れている私らからみると、それはもうメガディーラーというスケールです。ガイドを務めてくれたのはアメリカ在住30年で、メカニックとしては37年(※2008年当時)のキャリアをもつ、日本人の真鍋巧さん。この日はわざわざ休暇をとって頂き、半日、私たちの取材にお付き合いくださいました。

【写真】まるで巨大な中古車展示場かと思わせるGOUDY HONDA。アメリカでは新車を購入する際に、契約後そのまま“お持ち帰り”できるために多くの新車が展示してあるそうです。最高で月販500台を記録したことがあるそうです。
ここ「GOUDY HONDA」は、ホンダのディーラーといってもスタッフに日本人はほとんどいないため、そういう意味では、あまりアメリカ車系のディーラーと比較しても変わりはありません。真鍋さんはトヨタ、BMWと日本でメカニックを経験し、1977年に渡米。その後、アメリカでメカニックとして仕事を続け、今はここでホンダのメカニックとして活躍されています。

サービスピットを見渡して日本との違いを一番大きく感じるのは、やはり広々としたスペース。一度に何台ものクルマがリフトアップされ、メカニックがほぼひとりで一台を担当するシステムで、この取材の日もそれぞれが黙々と作業をしていました。

自分の生活を支えるのは自分の技量

【写真】とにかくアメリカのサービスピットでみるツールキャビネットはどれもビッグサイズ。大きなスナップオンのキャビネットはメカニックの成功の証とも、成功の為に不可欠なものとも言われ続けてきました。最近ではスナップオンだけではなく、多くのブランドで質の高いキャビネットが登場してきたので、若いメカニックたちも以前ほどスナップオンにこだわらなくなっているそうですが、今もこの大きなキャビネットに溢れる工具たちが多くのメカニックのスキルと生活を支えている大事なものであることに変わりはありません。
ほとんどのメカニックは、私物である大型の工具キャビネットを保有。最近では日本でもメカニックひとりにローラーキャビネットが一台ずつというのも普通の光景にはなってきつつありますが、アメリカではそのキャビネットのスケールが全然違います。

単純に比較しても日本の2倍はあろうと思われる大きなキャビネットに工具がぎっちりと詰め込まれ、なかにはさらに小さめのローラーキャビネットを持つメカニックもいます。どうしてこれほどまでにメカニックは沢山の工具を持っているのか?どうも、ただ単に工具が好きというようなことではないようです。真鍋さんに聞いてみました。

「アメリカのメカニックというのは給与の仕組みが日本とはちょっと違うのです。ホンダだけではないと思うのですが、基本的には固定給の比率よりも歩合の比率が高く、質の高い仕事を効率よく沢山こなせば収入は大きく増えるんです。だから、いかに仕事の質を高めるか?これが実に大事なんですね。そのためには自分の技量を磨くことはもちろんのこと、工具にもこだわりは生まれます。それと、スナップオンやマックのバンが頻繁に巡回してくること。彼らは独自のクレジット販売のシステムを持っていますから、お金がない若いメカニックでも分割払いで工具を買うことが出来る。このシステムに助けられているメカニックも多いと思います。まあ、逆に買いすぎて泣いているメカニックもいると思いますけどね」

なるほど。なんとなく、アメリカのメカニックがいわゆる便利工具への興味が大きい理由もこれでちょっとわかったような気がします。

ピットのひとりひとりが経営者

【写真】ピットでみかけた、メカニックのプライベートエアツール。インパクトレンチはアメリカの定番ハイパワーインパクトのIR(インガソルランド)。あたり前ですがソケットはちゃんとインパクト用。
さらに興味深いことを聞きました。アメリカのメカニックの場合、歩合給の割合が多いということもあると思いますが、なんと工具購入費用のすべてが所得税額から控除されるというのだそうです。メカニック個人が自分の技術のために支払った工具代が税額控除。なんだか、メカニックひとりひとりがモータースを経営しているような感じです。サービスピットに並んでいるメカニックはすべて個人モータースというわけでしょうか。

個性を尊重するアメリカっぽいシステムだなと思いますが、それはメカニックひとりひとりも厳しい競争社会の中で生きているということになります。でも、きっとそんな厳しさがオートモーティブ工具の世界で『工具の国』と称されるアメリカを育んでいるのかもしれません。

What is it?

ピットで見かけた気になるアイテムをご紹介。左上:今も現役の、30年前に70ドルくらいで買ったブラックアンドデッカーのインパクト(右)とIRのインパクト。BDはなんと日本製。下:オイル交換ピットにあったチェストはキャリアの浅いメカの私物。設定トルクが固定されている専用トルクレンチはHONDA純正もの。右下のオイルサーバーはまるでビールサーバーのようです。

【写真左】バンセーラーから買ったイタリアUSAGのロングコンビネーション。最初はバックアップツールのつもりだったのがお気に入りに。
【写真右】マックと同じスタンレーグループのブラックホークのラチェットメガネレンチ。気軽に買えるし、使いやすい長さもお気に入り。

【写真左】燃料チューブなどを途中でカットしてとめておくためのストッパー。最近ではめったに見かけなくなった タイプだが大事に使われています。
【写真右】本来はドアヒンジ用につかうレンチ。以前はホンダのCVCC用マニホールド用として使用していたそうです。

ベルトのテンション調整などで活躍するホンダ純正工具のギアレンチ。でも、形としてはマトコのスプラインギアレンチにも似ています。

取材前に、現場のメカニックの皆さんにDEENの工具をいくつか送ってテストしてもらったところ超ロングが大人気。他のお気に入りは?と尋ねると出してきたのがホームデポで買った伸縮式のラチェット。力をかけて使いたい時、早く振り回したい時、 状況に合わせてワンタッチで長さの調節ができる。$30もしなかった工具でも大活躍だよ!とご満悦でした。

 

※このレポートは高野倉匡人「工具の本2008」の記事をWEB用に再構成したものです。