種類豊富なオルファのカッターの歴史とルーツ。〜折る刃に込められた想い〜

世界標準となるほどまでに普及したオルファの「折る刃」。
世界初「折る刃式カッターナイフ」のルーツはガラスの破片と板チョコだった!

大阪、東成区にあるオルファ本社ショールームには、兄弟4人の小さな会社が、世界を舞台に活躍するまでの歴史を作った、歴代のオルファのアイテムが並んでいました。しかし、そこは華やかなショールームというよりも、大阪のモノづくりの大好きな町工場のおじちゃんのアルバムを、ゆっくりめくっているような気分にさせられる、なんだかとってもあったかい場所でした。
text:高野倉匡人(ファクトリーギア代表)

ヒントはガラスと板チョコだった

これが商品化された最初の折る刃式カッターナイフ。なんと町工場の手作りで、いきなり3000個を作ったものの品質がバラバラだったため、創業者の岡田良男氏がペンチとヤスリで一本ずつ手直しして出荷したという逸話が残されています。
「折る刃」式カッターナイフのパイオニアであるオルファのルーツは1956年。創業者の岡田良男氏が印刷工場に勤めていたとき、紙を切る刃物がすぐに切れなくなってしまうことに困っていた際に、刃を折りながら使えないかと思いついたことに始まったそうです。

発想のヒントとなったのはガラスの破片と板チョコ。ガラスを割り、鋭い断面で、ものを切っていた昔の職人と、進駐軍からもらった板チョコのイメージを重ね合わせ、板チョコのように刃をポキポキと折りながら、常に鋭い刃でものを切ることが出来ないか?この発想が、世界初「折る刃式カッターナイフ」の原点となっているのです。

もうここまで読めばすでにおわかりと思いますが、社名のオルファは「折る刃」が語源となっています。今回、ショールームを案内してくれたのは、創業者 岡田良男氏の弟で、2代目社長四郎氏の息子さんである岡田将生氏。私の素人的な質問にも、時間をかけて丁寧に答えてくださいました。

最高の使い心地を目指して

今も変わらずオルファの基本色はイエロー。もっとカラフルな色もという要望もありますが、カッターナイフは工具としての側面をもつものだから、安全を最優先する意味でもこのイエローカラーは変えられない、という素敵な理念があるのだそうです。
オルファは現在(2009年)、世界100カ国以上に製品を輸出するグローバルなメーカーとなっています。もちろん我々の日常生活でも、必ずどこかで手にすることのある、非常にメジャーなツールです。しかし今では、このオルファの類似品は世界中で生産されているようなので、ホンモノのオルファを使っているのかどうか、というとちょっとわからないかもしれません。

なぜなら、オルファの9mm、18mmという刃のサイズ、59度という折れ線の角度は、いまや世界標準となるほどまでに世界的に普及するようになっているからです。

そこで、この世界が認めた、気になる刃の幅や折れ線の角度について、それがなにを根拠にしてどうやって決められたのか尋ねてみました。

「それが、うちの創業者は、机の上で図面を引っ張って、色々計算してなにかを設計するというタイプではなかったんですね。このサイズとか角度とか、折れ線の溝の深さも、刃の研ぎ角も、みんな実際に試作品を作って何度も何度もテストを繰り返して作ったものなのです。だからあえて根拠を挙げるとすれば、実際に手に持って使いやすいとか、切りやすいとか、そういう感覚的なものということになりますね」

将生氏が話したとおり、ショールームのなかにはアイデアがスケッチされているもの、そしてそのアイデアをもとに作られた試作品などがたくさん残っています。こうして作られた試作品を握り、最高の使い心地を目指して改良を重ねた結果が、現在の世界基準のサイズを生み出しているというわけです。

人と人とのあったかい心意気が脈々と流れる製品作り

しかし、逆に世界基準となった以上、今では何が差別化になるのか?いったいオルファはなにが違うのか?それが気になるところです。

「まず、材質にこだわっています。オルファというブランド名になってから、使用している材質は一度も変更したことがありません。同じ性能で安いものができるという話もいただきましたが断りました。それから、生産は国内に限定しており、東大阪などの協力工場と親密にコミュニケーションをとりながら、よいものを作る体制を整えています。東大阪は近いですし、なにかあれば迅速に気持ちをこめて対応してくれますから」

話を聞けば聞くほど、この大阪という地区の、製造工場の皆さんのあったかい人間関係が感じられます。結局、オルファの製品がイイのは、こういった人と人との結びつきが作る、あったかい心意気が、創業時から今に至るまで、製品のなかに脈々と流れているということなんだなぁと、私の心のなかに結論づけられました。

製品のサイズは真似できても、こんなモノつくりの背景はちょっとやそっとじゃ真似できません。

ロータリーカッター

イギリスのテーラーメードで使われていたハサミに代われるものとして考案されたロータリーカッターも、何度も試作品が作られ、そのフィーリングを確かめながら開発されました。これも創業時からの変わらぬ開発姿勢です。

機能に裏付けられた形状

刃の先端とエンドにあるちょっとしたカケは、長い刃をカットするときの目印のようなものだと思っていましたが、実際は本体に押し付けるようにして動く刃のスライドを、スムーズにするための形状だとのことです。

この特集は高野倉匡人「工具の本 2009」の掲載記事をWEB用に再構成したものです。