ミトロイのおすすめのインパクトソケット〜こだわりと種類〜

以前の記事で、現在人気のヘックスレンチ開発の裏話として海外輸出がメインだったミトロイが、国内営業を強化するために戦略的にヘックスのラインアップを強化してきたというストーリーを紹介しましたが、実はミトロイという工具メーカーは、インパクトソケットのプロフェッショナルメーカーとして約40年前から世界を舞台に成長してきたのです。今回はそんなミトロイ本来の主力工具をメーカーの磯崎さんにアピールしてもらいました。
text:高野倉匡人(ファクトリーギア代表)

知らざれるミトのインパクトソケット

オフィスに入るなり、ミトロイの磯崎さんは手提げ袋から、おもむろに次々とインパクトソケットを取り出しました。

「本来、水戸工機(ミトロイ)は、インパクトソケットのプロフェッショナルメーカーとして長い間成長してきたんです。たとえばこのソケットですが、1/2SQの14mmサイズのものだけでも、これだけのラインアップを揃えているんですよ」

たしかに同じサイズでありながら、なんと14ものアイテムが机に並んでいました。あまりの豊富なラインアップに、国内の需要だけではなく海外の特殊用途向けのものかと思いきや、そのほとんどが国内向けだとのこと。使用されているのは、国内大手自動車メーカーの組み立てライン。ミトのインパクトをなぜ大手自動車メーカーが採用するかといえば、コストに厳しい彼らが、耐久性を重視するのはもちろんですが、ラインのなかで必要とされる、市販ではないような特殊工具をミトロイが個別に対応して製作しているからだそうです。

今回持参してくれた14アイテムも、そういった自動車メーカーの製造ラインのリクエストをベースに作られた特注品を、市販品としてラインアップしているもの。実際に、自動車メーカーが特注してラインで使用するほどですから、一般整備でもバッチリとハマル使い勝手のよいシーンがあるに違いありません。

特注品への取り組みとヘックスの評価

そして、もちろん個別の特注品&試作品への対応は、一般ユーザーに対してもかなり積極的に行っています。簡単な図面を元に、専門のセクションが設計して製品をひとつからでも特別製作するとのこと。当然ワンオフの工具なので価格は高くなりますが、特殊な工具を必要とするユーザーにとっては実に心強い。現在日本の工具メーカーとして、こういった対応をしているところは稀な存在なだけに、頭が下がる思いです。

ところで、ミトロイのヘックスがなぜマーケットで評価されるのか。メーカーの立場から分析してもらいました。まず、一番の理由としてあげたのが材料。ミトではヘックスの材料にSNCMV(ニッケルクロームモリブデンバナジウム)を使用していますが、これは基本的に上質な工具であれば比較的ポピュラーな材質といえます。しかしその配合は各メーカーまちまちで、ミトロイでは独自に配合し、他のメーカーとの差別化を図っているのだそうです。

ヘックスレンチは、この10年くらいの間でミトロイに限らず大きく進化をしています。たとえば、ミトロイのヘックスソケットはパワータイプソケットと名称を変え、従来のものとは違う素材(現在のL型レンチと同じ材料)を採用し、熱処理を変えることで硬度を落とし、やわらかく粘りのあるものに変更しています。もう、以前の評価や噂だけで工具を判断するということは出来なくなっているのは、間違いないようです。

最後に、磯崎さんはこう言って話を締め括りました。

「オートモーティブではイメージが弱いミトロイのインパクトソケットですが、当社の基幹アイテムでもあるので是非目を向けていただければと思います。また、当社の得意とするワンオフ工具なども、あまり知られてはいないのですが、お気軽にご相談ください。みなさんに非常に高く評価してもらっているヘックスは、今まで国産、アメリカ、そしてPBなどをターゲットに開発し、進化してきました。でもこれからは、もっともっと広く世界の工具に目を向け、特に評価の高いドイツのヘックス工具にも負けないスペックのモノ作りにチャレンジしていきたいと思っていますので期待していてください」

こんなのあったの?ミトロイの面白工具

「元」サンキ商品

老舗作業工具メーカーサンキが2002年に倒産し、その後、ミトロイがサンキで生産していたものの一部を販売するようになりました。これによって、これまでミトロイになかったプライヤー関係のラインアップが揃うことに。サンキのなかでも一部のユーザーから人気のあった、ソフトにつかめるプライヤー類や板ラチェットレンチなどを販売しています。

ラチェットレンチ

昭和49年に作られた3/8SQと1/2SQのラチェットレンチ。スナップオンやスタンレーなどのアメリカ工具を手本に作られたラチェットは、今見てもかなり品質は高いのですが、当時は一般品の2倍くらいの価格設定であったため普及しなかったそうです。こういったルーツをもつミトロイだけに、ハンドツールへの未来への展望ははっきりとしています。今後開発されるであろうラチェット類にも注目です。

ヘックスの補助ソケット

補助ソケットと呼ばれている黒いパーツは、作業時のガタツキを抑えるためのもので、使用するキャップスクリューのサイズに合わせて作られています。なんとバラでこれだけでも販売しているそうです。通常のヘックスレンチにも流用できそうでちょっと嬉しいアイテムです。

オフセットメガネレンチ

最後に恥ずかしそうに磯崎さんが出してきたのが、オフセットメガネレンチ。こういったレンチ類のラインナップがミトロイにあるというイメージは薄いのですが、よく見るとこのレンチ、スタビレーに実に似ています。「開発に聞いたんですが、昔スタビレーをモデルに作ったのだそうです」とのこと。なるほど、見れば見るほど確かに似ています。

この特集は高野倉匡人「工具の本 2009」の掲載記事をWEB用に再構成したものです。