KNIPEX(クニペックス)社長、ラルフ・プッチ氏と製品開発主任 Dr.ベルンド・リーペ氏に、KNIPEXについて質問しまくってみた!

クニペックス社長、ラルフ・プッチ氏と製品開発主任、Dr.ベルンド・リーペ氏に直撃!
取材前にプッチ社長から「とにかく何でも聞いてください。ファクトリーギアはお客さんに近いショップですので、みなさんからの意見や質問は我々にとって重要です。答えにくい内容もご心配なく。ドイツの会社はすぐに回答なんてしませんから」と冗談を交えたリラックスムードで始まったインタビューでした。同席してくれたのは社長のラルフ・プッチ氏と、製品開発主任のドクター・ベルンド・リーペ氏。
text:高野倉匡人(ファクトリーギア代表)

薄口工具について


Q.
バーコ薄口モンキーのようにプライヤーレンチの「薄口」タイプの要望があります。こちらについて、見解をお聞かせください。

A.クニペックスの製品は欧州やアジアに向けたものだけではなく、アメリカにも輸出しています。欧州のユーザーは使い勝手を優先する場合が多いですが、アメリカではトルクを非常に気にする傾向があります。薄型の製作にはこういった双方のマーケットを十分に調査しないといけないと思っています。皆さんのご意見を大切にして、製品化できるかどうかを検討したいと思います。

ネジザウルスのような工具は出しませんか?


Q.
トラスネジプライヤー、ねじザウルスなどのネジ山がつぶれたネジを外側からつまんで回す工具が日本では人気ですが、同様のコンセプトの商品をクニペックス社で開発の予定はないのでしょうか?

A.すでにその情報は入っていて調査はしましたが、日本以外の国ではあまり人気がないという結果が出たこともあり、あまり関心は持っていませんでした。また、自社で製品を開発することを得意としている当社が、他の会社がやっているものを後追いで作るというのはあまりやりたいことではありません。また日本国内では価格がすでに崩壊しているのではないか?という意見もあり、これも躊躇する理由のひとつです。

 

フラット刃で硬線が切りたいのですが?


Q.
断面がフラットに切れるニッパーで、配線なども切れるタイプは強度的に不可能なのでしょうか?

A.断面をフラットに切れるように加工するということは刃先を鋭利にする必要があります。これで硬いモノを切れば刃は欠けてしまいます。不十分な機能でも、プロモーションとして両方切れると宣伝することはできますが、品質への信頼を大切にするクニペックスとしては、今現在ニッパーでこのようなものを作ることは不可能だと言いたいです。

精密スナップリングプライヤーについて


Q.
45°ベントのスナップリングプライヤーの「精密タイプ」の要望があります。精密は農機メカに大人気です。

A.まずは品番が4431タイプを使ってみてください。4631タイプとは大きさはほぼ一緒です。精密タイプは先端の材質がピアノ線チップで、標準品はクロームバナジアムチップです。精密タイプのほうが強度は高いですが、まずは4431を使っていただければと思います。実際の使用時の強度などもう少し詳しく確認してみます。

コンビネーションプライヤーは出しませんか?


Q.
日本では定番の、くわえる開きサイズがスリップジョイント方式で変えられるコンビネーションプライヤーがラインアップされればヒット商品になると思いますが……。

A.これも世界的な視点で見たときに市場が小さいという問題があります。ここで、ちょっと話がそれて……。ちなみに、現在広く和ペンチといわれる、重ね合わせの部分に丸棒をつかむスペースがないものはもともとアメリカから来たプライヤーですよ。クラインのものにはないですよね。欧州ではコンビネーションプライヤーにはもともと隙間があります。チャンネルロックの古いモノにも丸穴がないですよね。クニペックスのウォーターポンププライヤーには穴ができてから作るようになりました(確かにクニペックス博物館でみた1950年代のウォーターポンププライヤーには隙間がなくアメリカっぽかった)。

エッジで配線を傷付けそうなんですが…


Q.
1381-200シリーズのエレクトロニッパーは、角張っていて狭いところでの作業時に他の配線を傷つけてしまいそうですが。

A.実はこの尖っている角は、機能として敢えて鋭利にしているものなのです。それはこんなふうに、穴を広げるためのひとつの機能なんですね。一応少し丸みはつけていますが、是非利用してみてください。

3枚合わせのプライヤーについて


Q.
強力ニッパーやロングノーズプライヤー、プライヤーなどで3枚合わせ仕様は作らないのでしょうか。アリゲーターやコブラに代表される3枚合わせ仕様のレンチは、掴んだ時にゆがみや逃げが少なく安定した作業ができます。それを応用すればもっと安定して切断や掴む作業ができるのではないでしょうか。

A.シンプルにコストの問題です。強力ニッパーやロングノーズプライヤー、プライヤーといったものは汎用工具として広く様々なお客様に使ってもらっています。こういった多くのお客様にとって汎用工具のコストはとても重要なものです。3枚合わせを採用した際にかかるコストを考えると、非常に高価な設定になるので今のところは考えにくいです。

スプリング付きニッパーについて


Q.
7412シリーズのオープンスプリング機能の付いたツインフォースニッパーの販売のご予定はありますでしょうか? また、160mm、180mmの2種類のみのラインアップですが、これも予定はあるのでしょうか?

A.ツインフォースタイプの7372シリーズにスプリング機能をつけようと計画しています。長さについては、まずは200mmから作りたいと思っています。

素材について


Q.
コブラとプライヤーレンチの素材は同じなのでしょうか?

A.同じクロームバナジアムです。

焼き入れ方法について


Q.
レーザー焼入れと高周波焼入れ、どちらも一長一短があるとは思うのですが、何がどう違って、どっちがどういいのですか?

A.レーザー焼き入れが必ずしも高周波焼き入れに勝るというようなデータは持っていないんですね。もちろん、クニペックスとしてはレーザー焼き入れも可能ですが、工場をご覧いただいた通り、今のところ高周波焼き入れを採用しています。

X-CUTニッパーについて その1


Q.
X-CUTニッパーの通常グリップの発売予定はありますか?

A.3枚重ねのグリップとして作っているものですので、通常グリップは作ることはできません。

X-CUTニッパーについて その2


Q.
X-cutシリーズに採用されているサンドウィッチ構造のニッパーについて、他サイズでのX-cut構造化は現段階で発売予定はありますでしょうか?

A.140mmサイズで非コンフォートグリップを望む声が少しですがあります。しかしハンドルの構造上非コンフォートは無理です。X-cut強力ニッパーにはとても向いている構造ですが、必ずしも他のものにはよいとは思えない、というのが技術サイドの見解です。

ワイヤーロープカッターについて


Q.
ワイヤーロープカッター9561-190(9562-190)について、自転車のアウターケーブル切断の時にインナースパイラルが潰れずに切断できるようにならないでしょうか? 切断後の穴拡張&整形 / バリ取りヤスリ掛けがなくなると作業効率がアップするようです。挟み込んでいく歯の形状ではなく、周りから包み切り込んでいく曲線の鎌型がよいのではとの意見がありました。

A.とても興味深い意見をありがとうございます。ただ、この製品自体が自転車専用の工具として作られているものではないため、ご意見のような改良を加えるということは難しいですね。

 

メッキのプライヤーについて


Q.
本体の表面処理にクロームメッキ仕上げのプライヤーを多く扱っていますが、錆に強いこと以外にどんな特徴・利点がありますか? また、どの分野で良く売れていますか?

A.電気関係の技術者がよく購入していますね。過酷な屋外の環境で使うことが多いので、昔から使う習慣があるのではないかと思います。それから、お金持ちの多いスイスなどでは人気があります。習慣の問題が多いと思いますよ。日本ではレンチはピカピカが好きなのにプライヤーではピカピカを使わないというのもとっても面白い話ですね。
    
※この特集は高野倉匡人「工具の本vol.7」の掲載記事をWEB用に再構成したものです。