レンチの種類と特徴 トレンドを探れ!~後編~

前編は こちら から
レンチのトレンドを探るコーナーの後編は、メガネレンチとラチェットメガネレンチにスポットを当ててお送りします。
text:高野倉匡人(ファクトリーギア代表)

オフセットメガネレンチ編

オフセットというのは、メガネ部分の立ち上がりの角度を表します。つまり、立ち上がり角度のあるメガネレンチという意味です。2000年以前は45度オフセットが主流だったレンチも、2000年代に入りスナップオンの10度オフセットやネプロスなどの45度でハンドルは6度というような、いわゆる浅い角度のレンチが増えていきました。ところが、最近はボルトナット周辺がタイトに設計されているものが増え、立ち上がり角度のあるレンチへのニーズが高まっています。今回はこの立ち上がり角度に注目してみましょう。

DEEN

欧州で人気の75度オフセットタイプは、工具業界全体で決して大きくはない日本のマーケットでは比較的マイナーな存在です。そのため、大手メーカーでは少ないロットの特別生産の継続は難しく、日本市場で人気の10×12や12×14といったサイズが続々と廃盤となってしまいました。しかし、一度このオフセット角を使ったユーザーにとっては手放せないレンチということで、DEENは欧州向け工具を生産するレンチ専業メーカー協力のもと、ようやく完成にこぎつけました。今回は特別に開発経過で作られた試作品の写真と合わせて公開します。

DEEN 75度オフセットメガネレンチ(DNMV75NL-1012)
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75度メガネの試作品から完成までを順番に並べてみました。
工具は図面上のものと実際に仕上がるものではイメージが大きく異なることが多く、1本のレンチの試作をするためには、機械のセッティングなどに膨大な時間がかかるので、多くの工具メーカーではよほどの大きなロットのものではない限り、サンプル製作の協力をしてもらえません。DEENがディテールにこだわるブランドであることをメーカーに理解してもらい、相互の信頼関係を醸成させながら何とか完成にこぎつけました。

ユーザーからリクエストの大きかった、メガネ部側面のフラットな形状。このほんの少しの厚みがレンチの振り幅に影響します。しかもこのシャープな仕上げは機能的な面だけでなく、デザイン的にもスタイリッシュに引き締まる効果となりました。これぞ機能美。

DEENの特徴であるメタリックなポリッシュフィニッシュを活かしながらロゴに凹凸を持たせ、滑り止め機能としても意識しています。

従来のディーンのレンチの特徴であるメガネ内側のザグリ部分をなくしたフラットなデザインはもちろん取り入れられています。薄いボルトナットを回す際に生きる機能です。

スナップオン

スナップオン 60度オフセットメガネ(XOM1012)

浅いオフセット角のイメージの強いスナップオンですが、深い角度の60度オフセットもラインアップしています。日本車が多いアメリカ市場での工具ということもあるのでしょうが、組み合わせも8×12、12×14、17×19mmという、日本車に便利なサイズが用意されています。ただ、インチサイズにはショートタイプもあるのですが、ミリサイズはスタンダードのみ。ちょっと残念。

注目ポイント
オフセットの角度を見るときに本来注目すべきなのは、メガネ部周辺の角度とハンドルの角度の両方。メガネ部分の角度が深くてもハンドルの伸びる角度が浅ければ実際の使用エリアはあまり変わりません。見た目のイメージと実際の使用感が違うのはこんなところにあるのです。
写真は、ディーンの旧モデル45度オフセットメガネとスナップオンの10度オフセットメガネを並べたもの。45度と10度といわれれば10度のほうが狭いエリアで使えると思ってしまいますが、反対側のメガネ部分では10度のスナップオンのほうがスペースを必要としていることがわかります。テーブルにレンチをピタッ!とあててみて、立ち上がりの角度とハンドルの角度の両方をよく見ることが大事です。

KTC

KTC プロフィットメガネレンチ(M30-10)
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またもやここでもプロフィットのご紹介。両頭を同サイズにして15度と45度に立ち上がり角度を分けているレンチ。1本で2サイズに対応することをオトクと感じるユーザーを完全に対象にしていません。ちなみにハンドル部分の立ち上がり角度は15度。こういうKTCの京都の頑固職人風な姿勢が好きだなあ。

スタビレー

スタビレー 75度オフセットメガネ(20-8×10)
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前述のとおり、日本での需要が高い10mm×12mmや12mm×14mmといったサイズが廃盤となり、10mm×11mmや12mm×13mmといった連番サイズのみのラインアップになっています。日本では特別なオフセットメガネレンチというイメージを持つ75度オフセットも、欧州の自動車メカニックの工具箱の中では超ポピュラーな工具として使われています。コンビネーションレンチ同様のドイツらしい梨地フィニッシュは素敵。

ラチェットメガネレンチ編

前編でも触れましたが、ラチェットメガネレンチは最近のレンチのトレンドの中心にあります。当初はコンビネーションレンチのメガネ部分にラチェット機構が付いたものだけでしたが、今や首振り、切り替えレバー付が基本機能としてあたりまえになり、そこにさらにプラスアルファしてどんな機能を加えるかが各メーカーの開発のポイントとなっています。プラスの機能が生かされる状況ではとても便利ですが、当然ながら日常使いにはシンプルなタイプがいい。しかしここではあえて最近注目のちょっと面白いタイプをご紹介します。

WERA

WERA ジョーカーレンチ(JOKER-10)
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ドライバー専業メーカーであるドイツ・ヴェラ社が、最初に作ったレンチはラチェットメガネレンチ。発売と同時に欧州から世界に向けて大ブレイクしました。ドライバーのグリップデザインを踏襲しているハンドル部や、某映画の登場人物の大きな口をイメージして作られたジョーカーという名称など、真面目なドイツブランドの枠を超えたユニークな一面も感じられる逸品です。

写真左:特徴的なのは、一般的なコンビネーションレンチのスパナ部に付けられている15度のアングルがなく、ハンドルに対して真っ直ぐの12角形状になっていて、これにより、スパナを裏表ひっくり返すことなく送り角30度で回せるようにしています。

写真右:スパナの片面にはプレートが付けられ、さらに滑り止め機能のとしての溝が切ってあります。このプレートは12角のポイントのうち6ポイントをふさぐ形になり、片側ではネジを落とさないための機能になっています。

ドイツメーカーらしく、サイズ表記も指をあてるであろう部分を意識して位置決めしているようです。斬新なデザインながら梨地処理というのもドイツ工具らしいフィニッシュ。ギアはちょっと枚数の多い80枚ギアを採用しています。

ブルーポイント

ブルーポイント 切換付首振りラチェットメガネ(BOERMF10)
製品購入ページ 首振り機能が付いたラチェットメガネレンチは裏表を使い分けて回し方向を変えるのが一般的ですが、これは、正逆切り替えのレバーがついて、さらに首振り機能も付いている珍しいタイプ。アダプターを使用して、面倒な付け替えが不要な首振りラチェット代わりとして使用するユーザーもいます。

KTC

KTC ショートラチェットメガネレンチ(MR1S1012F)
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ラチェット機構が付いたレンチは価格的には高めなので、スパナやメガネと同様、1本で2サイズを使いたいという意見はよく言われます。両頭首振りの両側ラチェットメガネ機能という、ちょっと欲張りなコンビネーションは、使用するジャンルを問わず高い人気となっています。

スナップオン

フランクドライブプラスラチェットメガネレンチ(SOXRRM10
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前述のフランクドライブ・プラスをスパナ側に採用しているラチェットメガネレンチ。全長が少し長めなのもトルクフルな使用をイメージさせられます。

DEEN

DEEN ラチェットメガネレンチ(DNM-14FGW)
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「ラチェットメガネとスパナの組み合わせは両方早回し用だし、スパナ部分はほぼ使っていない。メガネだったら使えるのに」というメカニックの声から開発されたもの。日本のメカニックからヒアリングして決められた独自の長さも好評で、既にベテラン商品ながら人気はまったく衰えていません。

この特集は高野倉匡人「工具の本vol.7」の掲載記事をWEB用に再構成したものです。