人気工具の誕生秘話を「ギアレンチの父」に聞いてみた!

工具業界の過去10年を振り返った時、世界を動かしたといえる工具のひとつが、メガネにラチェット機構がついた「GEAR WRENCH」です。今ではいち工具ブランドにまでなってしまった「GEAR WRENCH」も、その誕生は紛れもなく、1本のギアレンチからでした。そして、そのルーツを辿ると一人の男に辿り着きます。「ギアレンチの父」ボビーさん。そのボビーさんがギアレンチを大いに語る!
text:高野倉匡人(ファクトリーギア代表)

GEAR WRENCHの父

今から80年以上前、すでにギアレンチのルーツとなる工具はアメリカにありましたし、確かに日本でも20年近く前から、今のラチェットメガネの前身ともいえる工具は、KTCやサンキなどからひっそりとラインアップされてはいました。しかしその後、現在主流となっている細かいギアでヘッドがコンパクトなギアレンチが誕生すると、瞬く間に世界を席巻し、多くのメカニックが手にする超メジャーな工具となりました。

今や、世界各国のメーカーから数多くの種類が出ている「ギアレンチ」も、正式に「GEAR WRENCH」と呼べるものは、ダナハーグループに属する、リーウェイと呼ばれる台湾メーカーのものだけです。ダナハーグループとは、現在、スタンレー、スナップオンとともに世界に3つある大きな工具製造グループのひとつで、世界の工具マーケットを動かすほどの影響力を持つ大きなグループとなっています。

今回は、その「GEAR WRENCH」の父といえるBobby Huさん(以降ボビーさん)から直接「GEAR WRENCH」についてお話を伺いました。

GEAR WRENCH 誕生秘話

ボビーさんは、台湾工具の祖ともいえる周家に仕え、工具製造の技術を学ばれました。その後、周家の長男がリーウェイを創業し、ボビーさんも開発担当として活躍の場を与えられたそうです。

そして、1990年代始めから中頃にかけて、同じ台湾メーカーであるKABO社が開発した、現在のギアレンチの原型ともいえるスタイルをもったギアレスレンチが、ドイツでひとつのブームとなりました。価格は通常のレンチの6倍以上で取引されていたにも関わらず、常に欠品状態。この凄まじい売れ行きは原産国である台湾でも大きな話題となっていました。

ただし、ベアリングを使用するギアレスタイプは個体差が大きいため安定した製品を出すことは難しく、動作音のあるギアタイプの方が、市場で受け容れられるのではないか、とボビーさんは考え、そこで開発されたのが、現在の「GEAR WRENCH」のルーツとなったそうです。現在主流となっている72枚ギアや、パーツにメタルインジェクションを取り入れて強度と耐久性を向上させるなどという仕組みも、この頃考案したものでした。

リーウェイ退社〜HI-FIVE設立

ショールームには、ギアシステムを使って作られているHI-FIVE社の製品が数多く展示されています。
その後、ボビーさんはリーウェイを円満退社し、現在HI-FIVE(ハイファイブ)という会社を設立、独創性豊かな製品を今もドンドン作り出しています。「GEAR WRENCH」の大ブレイクについて、ボビーさんは、

「最初に、この商品を作ったとき、多くの人から、一時的な流行ものに過ぎないと言われてきた。でも僕は必ず大きなムーブメントになると信じていた。なぜなら、GEAR WRENCHは単体で使用するだけでなく、様々なアタッチメントを活用して使い勝手の可能性が大きく広がる工具だからね。今では世界中の多くのユーザーが、GEAR WRENCHを手放せなくなっていると思う。だからこれからも、良いものをドンドン作ってみんなに喜んでもらいたいと思うよ」

そんなボビーさんは、いつも好奇心旺盛で、嬉しそうになにかを考えています。

「ギアレンチの父」は、今後も、私達がびっくりするようなビッグヒット工具の父になるに違いありません。

いや、もうすでになっているのかも??

REVERSE GEAR

ボビーさんは現在リーウェイを退社しているので「GEAR WRENCH」というブランド名はもちろん使えません。切り替え式の「REVERSE GEAR」はボビーさんのパテント。

コンパクトにこだわる

ボビーさんがギアレンチおける基準のひとつだというのが外径のコンパクトさ。その大きさを測定するための簡単なテスターが用意されて、デモンストレーションしてくれました。

U型スリーブ

世界中の大手ブランドへOEMしているラチェットドライバーは、そのクオリティの高さが話題となっているほど。その秘密はこのU型のスリーブ。このスリーブの採用により抜群の耐久性を実現したのだそうです。

知らないうちに・・・

ボビーさんの生んだ数々のアイデアツールは、今や世界中の工具メーカーに供給されています。読者の皆さんのなかにも知らずに使っているものもきっとあるはず。

開発商品が刻み込まれた感謝状

リーウェイを退職時にボビーさんが会社からもらった感謝状。今までの開発商品が刻み込まれています。もちろん、1995.1「GEAR WRENCH」の刻印もあります。じっくりと見ると他のアイデアでも面白いものがたくさんありました。

そして、夜は更けて・・・

楽しい時間はあっという間に過ぎ、この日の夜は場所を変え、さらに遅くまで盛り上がってしまいました。工具の話は十分、酒の肴になっちゃうのです。「工具はやっぱり面白い!」。

この特集は高野倉匡人「工具の本2009」の掲載記事をWEB用に再構成したものです。