静岡県掛川市に工場を持つローカルな会社ですが、実は世界で知られる日本のブランド工具。創業者の山下宗一郎氏は明治41年に渡米してアメリカの自動車学校を卒業し、フォードの支店長宅にメイドとして住み込みアメリカ文化を学んだというバイタリティー溢れるグローバル人。そんなルーツも世界的ブランド「コーケン」を育てた大きな理由かもしれません。総合工具メーカーとしてではなくラチェットソケットなどの駆動系工具に特化しているのも工具ファンを惹きつけているポイントです。
text:高野倉匡人(ファクトリーギア代表)
Contents
ロゴマーク
呼称・名称・略称
株式会社 山下工業研究所
Ko-ken TOOL CO.,LTD.
国(ブランドのある国)
日本
工場
静岡県掛川市中方656番地
Ko-ken 工場レポート
概要
Ko-ken(工研)の正式な社名は「株式会社山下工業研究所」。まるで工具メーカーを感じさせない社名は、あまり一般的ではなく、工具ブランド名である「コーケン」と呼ばれています。工場があるのは静岡県掛川市。工具メーカーの多い新潟でもなく、大阪でもなく、他にほとんど工具メーカーもない茶畑に囲まれた長閑な場所にあります。しかし、世界という市場で見れば、日本の工具メーカーとしては欧州の有名工具ブランドと並ぶほどの知名度抜群の工具ブランドであるコーケンが、国際派工具ブランドとなったルーツは、創業者の歩んできた道にありました。
歴史(エピソード)
昭和32年(1957年)の山下工業研究所の工場と、工場内の様子。
創業者 山下宗一郎氏は明治22年掛川に生まれました。明治40年に上京すると正則英語学校に学び、わずか一年後の明治41年に渡米しています。アメリカに渡ると自動車学校を卒業。フォードの支店長宅にメイドとして住み込み、メカニック、運転手という仕事を真面目にこなし、人柄を認められてフォードに入社。生活の基盤を作ると、その後、16年間をアメリカで過ごしたそうです。
山下氏の帰国は大正14年。フォードの横浜工場設立のためでした。昭和2年からは大阪のGMに就職していますが、日米関係の悪化を受けてGMが撤退すると、昭和15年に大阪で山下工業株式会社を設立。昭和20年に工場戦災を受け掛川市に郷里し、昭和21年に山下工業研究所として再スタートしました。ここまでの歴史を見れば、当時としては、超一級の国際人だったといえるでしょう。そして、このヒストリーを見れば現在のコーケンの工具のラインアップの特徴との関係性もなんとなく理解出来ます。
カテゴリー
ソケットレンチ専業メーカー
・ラチェットレンチ
・ソケット
主な製品(代表工具)
コーケンのラインアップは駆動系工具、ラチェット、ソケット、それに関連する工具に絞り込まれています。あまりにもブランド力が強いので、海外だけではなく、国内でもコーケンのスパナやプライヤーなどがあるような印象を持つユーザーも少なくありませんが、商品カテゴリーをラチェット・ソケットに絞り込み、ターゲットも、オートモーティブを強く意識した駆動系工具専業メーカーといえます。
かつてイタリアのBETA社がOEMでコーケンのレンチを作ったことがありますが、あっという間になくなってしまい、その後、工具のラインアップカテゴリーを広げるという話は一切ありません。コーケンの製品ラインアップは、自動車で使われるネジ類に対応した工具が多く、今では、自動車メーカーが新しいビスを採用すれば、その工具の製造をコーケンに依頼することもあるほど、自動車メーカーとの関係も深いそうです。
さらに近年では製造機器などで使用される特殊ネジ用の工具の供給など、決して大きなマーケットだけではなく、流通する量が限られたネジでも工具はコーケンが用意するという強い意思が感じられるラインアップを取り揃えています。専業メーカーだからこその真摯な姿勢が、世界の工具ファンを惹きつける個性派ブランドとしての立場を確立させているのでしょう。
デザインの特徴
安心した工具を作る
コーケンの工具の特徴ともいえるのが、作業者の安全性を追求したデザイン。どれだけ機能性や強度を追求しても、工具の安全性には十分すぎるほどのケアをする。そして、この安全性追求の設計思想が工具の耐久性を高めることにも繋がっているのだそうです。そんなコーケンでは工具の壊れ方の研究も意識して行っているのだとか。写真はソケットの破壊実験を行うねじれ試験機。
Z-EAL(ジール)
コーケンでは、標準ラインアップの他に、より自動車整備を意識したコンパクト設計の「Z-EAL」というシリーズを用意しています。工具市場では決して大きくはない自動車整備向けに、ここからシリーズを拡充しようというスタンスも駆動系工具専業メーカーのコーケンらしいといえるでしょう。
使用されている業種
自動車整備業界
機械工具業界
建築業界 他
販売形態
専門店
WEB販売
部品商を通してのルート販売
保証
他の多くのブランド同様、◯◯年保証ということは行っておりませんが、工具の製造上に起因する不良に関しては原則無期限対応を行っています。また、ラチェットハンドルなどの駆動系工具に関しては驚くほど多くのリペアパーツを用意しているので、ハンドル本体が折れるなどの致命的な破損でない限り、現行モデルであれば修理することが可能です。(パーツ代は有償になります)
主な取引先・提携先など
海外約50ヶ国への輸出が7割を占めています。
参考文献
ハンドツールバイヤーズガイド 学習研究社
工具の本vol.7 学習研究社
世界の一流工具2015 洋泉社
その他
コーケンでは、流通するほとんどのビスに対応できるよう、コストを度外視してでも品揃えをするというスタンスがユーザーからの信頼を集める理由のひとつになっていますが、サイズ展開だけではなく、作業上で困ったときに活躍する工具というのも、実は少なくありません。これは創業者のルーツが、アメリカの自動車メーカーとのご縁が深く、アメリカ人メカニックが、困ったときに便利な工具を多用する姿をみたことがあるのかもしれません。工具メーカーの商品キャラクターには過去の歴史が反映されるものなのです。
外部リンク
・Ko-ken Tools the web – 公式サイト