トルクレンチとはボルト・ナット等をねじ規定のトルク値で締め付けるための測定工具です。
まずは、こちらの記事「トルクレンチの選び方」をご覧頂き使用目的に合ったトルクレンチをお選び下さい。
そして、そのトルクレンチの機能を正確に発揮し長く使う為に、ここではトルクレンチの正しい使い方を紹介します。
トルク値の設定方法
プリセット型トルクレンチ
これは一般的によく使われているトルクレンチで、設定したトルクに達すると「カチッ」という音と手に軽いショックで知らせるプリセット型トルクレンチと呼ばれます。ここでは設定方法を簡単に紹介します。
このトルクレンチには主目盛と副目盛があります。この目盛りで締付けトルクを設定します。
まずはハンドルのロックを解除しますが、このロックの方法はグリップエンドにネジでロックしてあるタイプと、グリップのところにスライド式でロックしたり解除したりするタイプとメーカーによって色々なタイプがあります。
基本的にどのトルクレンチも使用中に設定トルク値がずれないようにロック機構がありますので、まずはそのロックを解除します。
ロックを解除してハンドルやグリップエンドを回していき、主目盛に合わせます。次に副目盛の数字をセンターラインに合わせて設定します。
この状態は何をしているか?というと中のスプリングを圧縮しています。トルク値が高くなれば、それだけ中のスプリングを圧縮していることになります。
例えば22Nmに設定するとします。
まずは、主目盛の20のところまでハンドルやグリップエンドを回してきます。今ちょうど副目盛の0が主目盛の20のセンターラインのところにあります。(写真左)
この状態で現在20Nmですが、ここから副目盛の2までグリップを回して主目盛のセンターラインに合わせます。(写真右)
これで22Nmに設定されました。
プリセット式
ビーム式、ダイヤル式
ビーム式、ダイヤル式のトルクレンチは、締め付けていくと針が動いて締め付けトルクの数値を指してくれます。なのでトルクを設定せずそのまま締めていき、締め付けたいトルク値に針が達したらそこで手を止めます。
このタイプの良いところは今どれくらいのトルクで締め付けているのか?をリアルタイムで見れるところです。特に置き針式タイプが便利です。
ビーム式、ダイヤル式のトルクレンチは力を緩めると針が戻ってしまうので、締め付けたトルク値を力をかけている時に読み取らないといけませんが、置き針式は2つの針が同時に動いて力を掛けたピークのところでもう一つの針を置いてきてくれるので、力を緩めてもその置き針の数値を読み取ればどこまで締めたか再確認できるからです。
デジタル式の場合
デジタル式は各メーカーでそれぞれの特徴がありますが、全てに言えるのはデジタルで数値を設定できるというところです。
その設定トルクをメモリー機能に記憶させることができるので(操作方法はそれぞれのメーカーで異なりますので取扱説明書をご覧下さい)、あとはその数値を呼び出すだけです。
デジタル式はカチッという振動や首が振れるのではなく、設定したトルクに達すると音や光、中には振動で知らせしてくれるタイプがあります。またトルクデータを出力できるタイプもあります。
単能式
一見プリセット型のトルクレンチに見えますが、トルクを設定するメモリがありません。これはメーカーさんからの出荷時に指定トルクに設定してもらい、そのトルクしか測れないトルクレンチなのです。
なので、普通のラチェットハンドルのように締め付けていくと、その設定トルクで「カチッ」と知らせてくれます。
工場のラインなどで一つのトルク値しか管理しない場合などは、この様な単能式のトルクレンチを使います。
また、車のホイールを締めるときにしか使わないという方向けにKTCでは、ホイールの規定トルクに設定した単能式のホイール締め付け用トルクレンチがあります。
但し、これらの単能式を使う場合は日々数値をチェックするトルクチェッカーがあることが望ましいです。
単能式トルクレンチを見るトルク値の表記について
現在のトルク値の単位はニュートンです。
整備マニュアルが古くて指定トルクがキロ表示だったり、古いトルクレンチはkgf/mの表記のトルクレンチをお持ちの方もいらっしゃると思いますが、こちら東日さんのサイトで換算してくれますのでこちらで確認してみると便利です。
ちなみに1kgf・m=9.80665Nmです。
正直これを計算するのは面倒なので、ざっくりと1キロを10Nmで換算しても一般的にはそれほど問題はありません。
トルクレンチの持ち方
正しいトルク管理には持ち方(力をかける位置)が大事です。
これはプリセット型・ダイヤル式・デジタル式など殆どのトルクレンチに共通します。
トルクレンチのハンドルには基準点というものがあります。
特に表記していないもはグリップの中央と考えてください。
正しくトルク管理するには、この基準点に力をかけなければいけません。
この基準点に中指が来る様にグリップを握り、そこに力がかかるイメージでトルクを掛けて下さい。
これでトルクレンチが「カチッ」といったら、正しいトルク値で測定できています。
この力のかける位置を変えるとどう違ってくるのか?トルクチェッカーを使って短く持ったり長く持ったりして実験してみました。
まずは、10〜70Nmのトルクレンチでトルク値を22Nmにセットして、正しい位置を持って測ります。
22.1Nmでほぼピッタリです。
では、持つ位置を短くグリップの前の方を持って測ってみます。
すると23.1Nm
4%以内の22.9を超えてしまっています
力を入れる位置を前にするだけで1Nmも強くなります。
短く持てばそれだけ力がいりますから、カチッと言わすために力がかかり、当然オーバートルクになってしまいます。
では、長く持つ感じでグリップの後ろ側で力を入れて測ってみます。
21.8Nmです。
こちらは4%以内に入っているので問題内といえば問題ありませんが今度は0.2Nm小さく出ます。
分かりますよね、短く持てば力が要るから強くかかり、長く持てば軽い力で済むから弱くかかります。
このように持つ位置で力のかかり方が変わる為、正しい位置を持って力を入れないとせっかくのトルクレンチも能力を発揮出来なくなってしまいます。
22Nmでこれだけの差が出るので、大きな数値の場合はもっと差が出ますので、持つ位置は気をつけて下さい。
ボルトを締付ける順番
トルクレンチは設定したトルクでボルトを締め付けますが、ホイールのボルトが何本もある場合は、締め付ける順番があります。
例えばこのような場合は、まず2と5を締め付けて次は対角に3と4、6と1の順で締め付けていきます。
車のホイールも対角で順次締め付けていきます。
片側から順番に締めると偏って浮きが出る可能性があり、浮きなどが出ないように均等に締め付けていく為です。
トルクレンチを使う時の注意点
*ダブルチェックはダメ
プリセット型のトルクレンチはカチッといったその瞬間がトルク値に達した時なので、反動で締め過ぎたりしないように注意しましょう。
また、カチ、カチと2回やったりする方もいらっしゃいますが、2回やるとそれだけまた増し締めされてしまうのでトルク値がずれます。
*逆回転はダメ
右回しも左回しもできるトルクレンチもありますが、殆どのトルクレンチは締め付け方向にしか回せません。
切り替えレバーが付いたラチェットヘッドになっているので、通常のラチェットハンドルのように右も左も出来そうに思えますが、あくまで機構上のもので左回し(緩め方向に回す)はダメですので気を付けてください。
トルクレンチの管理方法
使い終わったら、設定トルクを戻す。
一般的なプリセット型のトルクレンチはコイルスプリングを締め込んでトルク値を設定します。
そのまま放置しておくとスプリングが圧縮されたままなので、元に戻らなくなって下の数値がずれてしまうからです。
戻し過ぎに注意
使い終わってトルク値を戻す際は、そのトルクレンチで測れる一番低い数値で止めてください。
それ以上緩めるとバネが外れてしまうことがあります。一番低いトルク値のところで止めて保管してください。
保管場所もちょっと気を使って下さい。
測定工具の一種ですのでケースに入れて振動があまりない場所や湿気がない場所で保管して下さい。
湿気は中のコイルスプリングを錆びさせてしまうこともあり、結果トルク値が狂うことにつながります。お菓子に入っているような乾燥剤をケースに一緒に入れとくのもいいですね。
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